ソレ・・ [信じますか?]
うちの母方の実家は、林業と木材の加工品を作っていた。
桧の材木を使った一時加工迄を請け負っていたらしい・・
子供の頃(幼稚園生)、実家で所有する山に連れて行ってもらった事がある。
伯父と、軽トラ?に乗り2人で山に入った記憶がある。
山の中で数人と合流した・・・
軽トラを止めたその場所から遠くに行かない様に。
そう言い残しておじさん達は、山の斜面を登って行った。
最初は車の周りに生える植物や、そこに生息している虫を見つけて遊んでいた。
そして、ある生き物を見つけてしまった。
車を止めた場所の下り斜面に「やまかかし」がいるのを見つけた。
「やまかかし」に毒は無い言われていた所為か、恐怖心は無くそれを捕まえようと思った。
※「やまかかし」には毒があります。私の子供の頃は毒は無いと言われていました。
子供の私は、その山の斜面を「やまかかし」を捕まえる為に下りてしまったのだ。
私の気配を感じた「やまかかし」は直ぐに逃げ出してしまった。
「やまかかし」に逃げられた私は、しょうがないと下りた斜面を引き返そうと思った。
足を上に向けて登ろうとするが、地面に積もった枯葉や枯れ枝で足が滑る。
登れないのである・・・目に付く雑草を掴み、登ろうと足掻くが前に進まない。
怖くなった私は、助けを求めて大声で伯父さんを呼んだ。
静かな山の中に、自分の声など吸い取られている感じがした。
何度も叫んだ、怖くて涙が出て、泣きながら叫んだ記憶がある・・
どれくらい叫んだのだろう・・多分10分も経っていないだろう。
・・・何かが近くにいた。
それは、形容のしようがない・・人?・・獣?・・のような物だった。
私の横に居て・・私を見ていた。
見ていた?いや・・見つめていた?見ていたのかもよくわからない・・
だって、それの顔?は車のヘッドライトと言えば分かるだろうか・・・
今でもそれだけは思い出せる・・・・
ソレは私を見ていた・・
そして、ソレは私から少し離れては止まり、離れては止まりを繰り返した。
私は何故かそれの後を追っていた・・追わなければいけない気がした。
そしてソレが動かなくなった・・
それは暫くその場にいると・・段々と影を薄くして消えていった・・
「あぁ!〇〇!どこに行ってた!!」
叔父さんの声が聞こえた・・気が付くと私は軽トラの側に立っていた。
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伯父の話によると、私を置いて山に入ってから30分程で軽トラまで戻ったらしい。
そして、私が車の周りに居ないのに気が付き探したのだと言う・・
伯父達は3時間程探し回ったが、私を見つけることが出来なかった・・
伯父は山を降りて助けを求めようと車に戻り、車の側に佇む私を見つけた・・・
でも、私の感覚だと3時間も彷徨った感覚が無かった。
ほんの20分程度の感覚だった。
どこをどのように歩いて斜面を登り、止めた車の側に辿り着いたのか覚えていない。
ただ、ソレの後を追っただけだった・・
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ここで母の子供の頃の話をしよう。
母が小学生の頃。
学校からの帰り道を同級生と一緒に歩いていた。
いつもの通学路
薄暗い感じの、竹藪のある道に通りかかると・・・
ガサ!
竹藪が鳴り、母と友達はその音の鳴った方に目を向けた。
ここからは母の言葉だ。
「車のヘッドライトって言えばいいのかな・・ソレの顔が車のヘッドライトみたいでさ。」
それが、ジッとこっちを見ていた。
しばらくソレは母達を見ていたが、また竹藪の中に消えて行った。
この思い出・・
母は同窓会があるたびに、一緒にそれを見た同級生と・・
「あれはなんだったんだろう・・」
必ず話しをしていたらしい・・
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母が見た物と私が見た物は一緒だったのだろうか。
その当時、母と伯父にはこう言われた。
「山の神様に助けられたのかもな・・」
伯父にも、母にも、もう聞くことは出来ない。
後年になって、伯父がこの話についてこんな事を言っていた。
「俺も昔、助けてもらった事があるから・・」
ソレ・・・
ソレを見た人は他にもいるのだろうか・・・・