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吉田さん [車窓]

その日、東京を出たのは14時位だったか・・


グンマーの何時もの終着駅に着いたのは夕方16時台・・・


IMG_6416.JPG


その終着駅でローカル線に乗り換える為に、20分程時間を潰さなければいけなかった。


私はその駅の待合室で時間を潰す事にした・・


待合室の近くにある自動販売機でコーヒーを買い、西日の当たる木の固い椅子に腰を掛けた。


周りを見渡すと西日が差し込む窓を背にするように、二人が椅子に腰をかけている。


私はサングラス越しに、その二人を見た。


一人はこの田舎に出張に来たらしいサラリーマン風の男・・


そしてもう一人、私には馴染の女性が腰を掛けていた。


その女性は、何時も決まって夕刻のこの時間帯に見かけるのである。


年の頃は20代中位か・・もしかした30は過ぎているかもしれない・・


髪は肩より少し長い位、後ろにまとめてポニーテールにしている。


身長は待合室の椅子に座って、足がブラブラする程度・・


持ち物は・・(特定されるのでパス)


服装は・・・この辺りでは頑張っている(方向は確実に誤っている。)


プラプラさせている足には・・・黒のピンヒール・・


「や・・奴だ。」私はとっさに身構えた。


その女性を初めて見たのは何時の事だろう・・・


もう、彼女と出会って5年はたつかもしれない・・


その女性を、仮にAさんと呼ぼう。


暫くAさんを見ていると、隣のサラリーマン風の男性に話しかける・・


「・・・・つかまった・・」サングラス越しに光景が目に入る・・


ローカル電車が到着する旨のアナウンスが入る・・


私は、そのサラリーマンとAさんを視界の端に入れながら待合室を後にした。


「ほっ・・」正直な感想だ。


ローカル電車に乗り込み、先頭車両の座席に座り携帯電話を取り出した。


会社からのメールを確認する。


この電車は「行き違い」がある為に暫くこの駅で停車する・・・


停車する際、空調効率を良くするためか最後尾の出入り口以外は全て扉を閉じる。


しばらくして・・


携帯に目を落としていた私の耳に、遠くでヒールが床を叩く音が聞こえてくる・・


視線を携帯から、音のする方・・・・電車の最後尾に向けた。


・・・・・Aさんが・・・ヒールを・・カツ・コツ・カツ・コツ・・・と鳴らしながら・・


こちらに向かって進んでくる・・


「げっ・・・な・・なぜ・・」


私は全力で携帯電話の画面を見つめた・・


何故だ・・奴が何故‥電車に・・乗ってこない・・はずじゃ・・


携帯を見つめながら・・・その音が近づいて来る・・・


「く・・くるな・・くるな・・」思わず祈る・・


携帯を見つめる、視界の端に・・カツ・コツ・・音と共にヒールが入ってくる・・


私の前で立ち止まると・・・私の真正面の席に座る・・もぞもぞしている。


足が宙に浮いてプラプラしている・・


そして・・その足が・・・交差した・・


私は恐る恐る顔を上げた・・


サングラス越しにAさんが見える。


西日を背にしている所為か、後光が差しているように見える。


真正面に座り、私は出来る女よ風に足を組み、カバンからノートと筆記用具を取り出す。


ちょっとファンシー系のノートとシャープペン・・


ノートを開く・・その手が止まる・・




奴が・・見ている・・・俺を見ている。サングラス越しに視線を感じる。


Aさんが私をじっと見ている・・


私も・・Aさんを見たまま・・動けなかった。


Aさんの唇が・・ゆっくりと動く。




貴方、お名前は?




え?


よく、見かけるわよね。


え?


唾を飲み込んだ・・



・・・・・よ・・



「吉田です・・・・・」



吉田さん。って言うんだ・・


宜しくね・・・



・・・・・ごめん・・・


うそ・・・つきました・・・


僕は・・・吉田・・ではありません。


・・・・何の話ですか?


そう思いますよね・・


このAさん、某駅の待合室にいて・・・


隣に座った人に話しかけ、訳の分からん仕事の話を自慢げにしているんです。


何時も怖い・・


つかまりたくない・・・


そう思っていたんです・・


そして・・・初めてつかまり・・名前を聞かれる・・しかも車内・・


なんたる恐怖・・


・・とっさにウソをつきました・・


神様・・・ゴメンなさい・・


Aさんごめんなさい・・


・・・・・・・・・




この記事は誤ってUPしてしまった事があります。

その時にnice&コメント頂いた皆様、そのまま公開させて頂きます。

申し訳ありません。

















nice!(37)  コメント(13) 
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コメント 13

たいへー

神様は知っています。 「嘘も方便・・・」 ^^;
by たいへー (2020-05-14 21:28) 

Boss365

こんにちは。
ナンパかな?奥田英朗さんの文章みたいで・・・
次に何が起こるか?楽しみました。
「嘘八百」にならないように気を付けたいですね。!?(=^・ェ・^=)

by Boss365 (2020-05-14 23:46) 

拳客

たいへー様
嘘も方便・・・でもですね。また会ったら「吉田さん」として・・無理。

Boss365様
ナンパ・・・いやー違いますよね。このAさん、うちの嫁さんも見ているのですが、やはり違和感を感じるようです。


by 拳客 (2020-05-24 11:47) 

ぼんぼちぼちぼち

えっ?!、、、嫌でやすね、、、
自慢話したいために見知らぬ人に声をかけてつかまえるなんて、、、
自慢話したけりゃ今はネット上でいくらでもできるでやしょうに、、、
by ぼんぼちぼちぼち (2020-05-24 15:08) 

JM7XZC

その方は,きっとASDですよね。
by JM7XZC (2020-05-24 20:48) 

なかちゃん

そんな状況だったらボクでも違う名前を名乗ってしまうかもしれませんね^^;
それが峰不二子みたいのだったら別だけど(^^)

by なかちゃん (2020-05-25 08:24) 

拳客

ぼんぼちぼちぼち様
そーなんですけど、ちょっと変わった人らしくて・・
あまり係わりを持ちたくない人ですね。

JM7XZC様
ASDなんですかね・・・良くわからないですけど。
ちょっと自意識が高いのかな?

なかちゃん様
峰不二子・・・そりゃあ大歓迎ですね。

niceを頂いた皆様、ありがとうございます。


by 拳客 (2020-05-25 19:28) 

Hide

とても面白いお話ですね!
最近、電車もバスもタクシーも乗りませんので
こんな素敵な?出会いはとても無理そうです・・・
お顔が吉永小百合に似ていたら嬉しいのですが無理かな><?
by Hide (2020-05-25 19:45) 

拳客

Hide様
うーん。お顔云々は・・・一度会ってみてはいかが?
by 拳客 (2020-05-25 22:14) 

Rinko

フィクションじゃなく、ノンフィクション・・・ですよね???
えぇっ。吉田さん、じゃなくて、挙客さん、狙われちゃいましたね・・・(;・∀・)
私の中で「吉田」と言えば、その後に続くのは「類」なんです。なんのこっちゃ。
by Rinko (2020-05-26 08:08) 

拳客

Rinko様
ノンフィクションです。
吉田類ですか居酒屋ですね。
それだったたらいいですね。
by 拳客 (2020-05-27 20:09) 

(な ̄▽ ̄お)

謎多きエピソード!
興味深いけど、怖いですねえ
偽名は正解だと思います
もうずっと吉田で通しましょう
類で(笑)

by (な ̄▽ ̄お) (2020-05-29 01:49) 

拳客の奥様

(な ̄▽ ̄お) 様
その方に出逢ったら、吉田と言うでしょうね~^^爆
by 拳客の奥様 (2020-05-31 18:31) 

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