ある山・・ [信じますか?]
今から6年位前だろうか・・・
東北六県を約2週間の予定で出張・・
東北の担当者と一緒に、車で北上していた。
そして、ある県の事業所での仕事を終わらせた時だった。
事業所の女性スタッフに・・
「ここから〇〇に行くのにどの道を通った方がいいですか?」
女性スタッフは時計に目を向けた後・・・
「今の時間だったら・・遠回りですけど〇〇道路を使った方が良いですよ。」
そう考えながら答えてくれた。
私と同行していたスタッフは、事前に目的地までのあたりを付けていたので・・
「〇〇〇山を抜ける道の方が近いですけど・・・・」
そう不思議に思ったので聞いてみた。
何故なら、迂回するよりは山を抜けた方が1時間以上早く目的地に着くからだ。
その事業所で仕事を終わらせたのは16時過ぎ・・・
そろそろ日が暮れる時間だった・・
女性スタッフは苦笑いを浮かべながら、こんな事を口にした。
「地元の人は、夜は絶対に通りませんよ・・」
なんでこんな事を言ったのか・・・私は深く考えずに事業所を後にした。
「〇〇さんどうします。」
同行しているスタッフが車のエンジンを掛けながら聞いてきた。
私は少し考えたが・・
「運転する〇〇さんは、夜の山道は苦手?」
そう聞き返した。
「いやー東北は山ばかりだから大丈夫ですよ。」
そう笑いながら答えが返ってきた。
「任せるよ・・・」
私は運転するスタッフに任せることにした。
しばらく考えていたスタッフは・・
「早くホテルに着きたいですし、山・・越えちゃいますか(笑)」
そう言うと車を走らせた・・
携帯電をナビ代わりに、山に向かって走る。
地図を眺めていると、その山を超える為の入り口となる道は二本。
その二本の道路は、先で合流するようになっていた。
「何で二本に道路を分けたのかね・・・」
変な道路の作り方だな・・などと考える。
「あぁ、その一本は観光地に行くんですよ。」
「そうなんだ・・・観光地。」
そんなような会話をした覚えがある。
後にした事業所から一番近い道は、その観光地に向かう道だった。
私達がその山道に入る頃には、真っ暗になっていた。
ラジオからは現地の話題が流れていた・・
スタッフに先程の事業所について聞きながら、ライトが浮かび上がらせる道路を見ていた。
すると・・
「人が居ますね・・」
運転するスタッフが先に気が付いた。
そう、ライトの照らす先に人がいた。
「こんな時間にこんなとこ歩く?」
リュツクを背負った後ろ姿が見える。
車のスピードを緩め、その人物の横を徐行しながら通り過ぎ・・・
「ご苦労様・・だな。」
そんな言葉が口から洩れた・・・
え!?
通り過ぎる瞬間・・・
その人物と目があった・・・
「地元の人は、夜は絶対に通らないですよ。」
女性スタッフが言った一言が頭をよぎった。
いつもまずい物と接触する時の感覚・・
総毛立つ・・・
私は運転するスタッフに。
「いまの見たか!?」
運転していたスタッフは視線を少しだけこちらに向け。
「え?なんです。」
どうやら人が居るのは気が付いたが、良く見ていなかったらしい。
「この道、早く抜けよう・・・」
そう一言いって後ろを振り返った。
・・・・・人は見えなかった。
ここがどう言う道なのか、考えてもいなかった。
それに気が付く機会はいくらでもあった。
私はドキドキしながら、車窓を見つめていた。
そして、ある標識が見えてきた・・・誰もが一度は聞いたことがある・・それ。
ここがなんの観光名所なのか・・・改めて理解した。
こんな所・・・夜通る奴なんかいるわけない!
後悔・・・・早くこの道を抜けないと・・・
そして、その観光地と言われる所を通り過ぎ・・・
もう大丈夫か?
そんな事を考えた・・
そして、運転するスタッフにさっき歩いていた人の話をしようとした・・
「君も見るのか?」そうスタッフ聞こうとした。
え!
急に目の前に広がる光景に・・・
急ブレーキ!
タイヤの軋む音と、シートベルトで前に飛び出しそうになるのが抑えられる衝撃。
カーブを抜けた先、ライトの光に浮かび上がった・・
道路いっぱいに広がる、人・人・人・・・・・
撥ねた!!
そう思った。
でも・・・何も・・起こらなかった。
そして
誰も・・
いなかった。
・・・・・シートベルトを外し、外に出た。
遅れて、スタッフも外に出た。
何もなかった・・・
ただライトに浮かび上がる山道だけが浮かび上がっていた。
「〇〇さん・・・今の見ました・・・」
かたい声で私に話しかけてくるスタッフ。
私はスタッフに・・
「さっき、人が歩いていただろ・・・」
「え・・・あのリュックの人ですか。」
「・・・・あれ・・・軍人さんだった。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私とスタッフは山道を抜けるまで、さっき見た事について話をした。
そして、このスタッフも「変なもの・・」を見るらしい事を知った。
この場所をネットで検索すると、凄い数の「変な体験」をした人達の記事が出てくる。
あの女性スタッフが言った言葉。
やはり地元の人が言う事には従うべきだったと思う。
今では・・・
出張先でルートを確認する時には、例え遠回りでも現地スタッフの言葉通りに動いている。