対向車・・ [信じますか?]
まだ、二十歳そこそこの年齢だったと思う。
その当時G県の母方の田舎に行くには、東北道しかなかった。
関越がそこまで開通して便利になったのは、その数年後だった記憶がある。
田舎に車で向かったのだが、東北道を降りてからが大変だった。
今なら、カーナビもあるし、携帯でも道案内が出来る。
しかし、その当時はナビはあったと思うが高級品。
一般庶民は地図と標識を頼りに目的地へ向かうのが当たり前だった。
兄と二人で向かう母の実家・・
運転も交代、地図を見る係も交代。
私達兄弟は、真っ暗になった山道を走っていた。
時間的には夜11時を過ぎていたと思う。
「なぁ・・この道で合っているのかな。」
運転する兄とそんな会話をしながら、不案内な道を走っていた。
山道とは言っても舗装もされているし、所々に街灯もある。
山を見れば上の方を上っている車や、下って来るであろう車の灯りも見える。
私は窓の外を見ていた、登り道が続き、小さな排気量しかない車はゆっくりと登る。
台数は少ないが車のヘッドライトの灯りや、ブレーキランプの灯りも遠くに見える。
暗い夜空には星も見えるくらいだった・・
車のラジオも山の中の所為か、ノイズ交じり・・
山道をどれくらい走っただろうか・・
私はある事に気が付いた・・多分兄も気が付いていると思った・・
私は、窓の外から地図に目を戻した。
暫く無言が続く。
下り坂になった・・
「この先を行くと T 字路があるかな左折な・・・」
私は地図を見ながら兄に指示を出した。
暗い坂道からちょっと開けたと思ったら T 字路が見えて来た。
車のヘッドライトに照らされて、道路標識が見える。
右折はA市迄30キロ、左折はB市迄6キロ。
「あれ、A市だから右折だろ・・」
兄が私をチラッと横目で見て、怒った口調で言った・・
兄は気が付いていなかった・・
私は「トイレに行きたいから、左折してくれ。」
B市の方が近いし、A市迄行く途中にコンビニがあるか分からないだろう・・
そんな言い訳を並べ立てた・・
兄は「しょうがねーな」の一言で左折してくれた・・
しばらく走り、B市に入る・・
そして最初に見えたコンビニへ入った。
コンビニの駐車場で止まると、兄はタバコに火をつけ紫煙を吐き出す。
私は、一旦車を降りてコンビニで用事をすまして戻った。
そして、兄が気が付いていないのか聞いてみた。
「なぁ、兄貴・・・山道に入ってからおかしいのに気が付かなかった?」
「なにがだよ・・」
本当に何の事だか分からなかったらしい。
「兄貴さぁ、運転しながら山道、遠くまで見えたよな・・」
「あぁ、見てたよ。」
「なら、先の方から対向車が来るのも分かったよな・・」
「あぁ、先の方の山から下って来るのは見えてたよ、だから?」
夜の山道を車で走っていると、続く山の上から車の灯りが見え、対向車が来るのが分かる。
「なぁ、運転していて対向車とすれ違ったか・・」
そう言われて「あっ・・」思わず兄は固まっていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私は車の窓から外を眺めていた・・
遠くの山道にヘッドライトの灯りが見えて、こちらに向かっているのが分かった・・
どの時点からだっただろうか・・
来ると思った車が来ない・・・
この山道に入ってからだと気が付いた・・
それに気がついてから、地図を見た・・それこそ穴が開くほど・・
側道は一本も無かった・・逃げ道も無い・・
かならず、すれ違うはずだった・・
それでも、そんな事があるはずが無いと思った・・
確信を持ったのは、次に向かってくるヘッドライトだった・・
視界に入った遠くに見えるヘッドライトを追いかけた・・
段々こちらに向かってくるのが、ヘッドライトの灯りで分かった・・
そして山の死角に入り見えなくなったが、同じ道を下ってきているはずだ。
直ぐにすれ違う・・そう思ったが、いつまでも対向車は来なかった。
何台だ・・・
自分が気がついてから3台は対向車が来ていたはずだった・・
それが、1台もすれ違わないのだ・・
私は急に怖くなり、一番近い街に行こうと考えた。
とにかく人が沢山いる所に早く着きたかった・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
何かあったの・・・
そう言われれば何も無い・・
私達兄弟はそのコンビニで仮眠を取り、明け方に母の田舎に向かった・・
田舎で伯父にその話をすると、「山道で間違って落ちる奴がいるからな・・化けて出たのかもな・」
そう言って笑い、煙草を吸っていた・・
あの道・・東北道の某出口から走って少し行った県道〇〇号線・・・・・
関越があるから2度と使うことも無い道だと思うが・・
いやいや、近くに行っても絶対立ち寄らない・・
では・・皆さんも山道には気を付けて・・・
( ̄▽ ̄)キオツケテネ・・